岩屋の揺蕩

 先日25歳になった。ちょうど四半世紀生きたことになるが、この半年ほど自分自身と向き合った時期はなかったように思う。自分自身というか自分の将来というか、現実を見なければならないというのは辛いもので、書きたいことはあったのに半年以上ブログ更新できなかったのもそれが原因だ。

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 自分自身と向き合うというエモーショナルなことをさせられたのは、就活とかいう人生最大のクソイベントのせいだ。このブログでは可能な限り丁寧な言葉でフォーマルな文章を書くように心掛けているのだが、「酷い」とか「劣悪な」とか、そういった言葉では形容できない、紛れもない「クソ」イベントだった。

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 しかし日本の就活のクソ具合というのは、あらゆる場所で言われていることなので、今回は就活のシステムの話ではなく、僕が何を考えて、何が辛かったのかに焦点を当てて書こうと思う。これから就活をする人の目に留まるかもわからないし、僕ほど気を病む人も多くないだろうとは思うが、僕と似たような属性を持った人の一助となればと思う。ドアのノックは2回ではなく3回だとか、グループディスカッションでは司会をやれとか、ゴミ溜めに無尽蔵に積んであるような情報はその手の人に聞いてくれればいい。

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 何故僕が就活で辛かったのか、結論から言ってしまうと僕の性格が大きな問題であった。完璧主義で物事への取り組みが遅く、まともな実績もないのに妙に高いプライドだけはあり、バランス感覚が無く、優柔不断で移り気、ネットの情報を上手く手繰っているようで実際は操られている。書き出してみると2ちゃんねらーの権化という感じだ。人間の短所の多くは長所に言い換えることができる、といのは"ゴミ溜め"でよく見る文言だが、こと日本の就活において上記の短所がプラスに働くことは無いだろう。就活はまだここにない出会いを求めるものではない。ただただ社会不適合者を排除する仕組みそのものだ。民族性の結晶とも呼ぶべき、この芸術的なまでの仕組みが、"kamikaze"や"karoshi"のように"syukatsu"として世界共通語になる日が来るかもしれない。

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 では僕はどうすれば良かったのか。一言で言うならば「妥協」であったと思う。僕はこれまでの人生で積極的にやりたいことをやってきたように思っていたが、実際はやりたくないことを避けてきたことの方が多かったと気付いた。こういう生き方をしていると基本的に我慢したり妥協をしなくて済む。そういう時もある、そういうこともある、というように折り合いをつけるための社会性が欠落していく。近年話題のブラック企業はともかくとして、どんな会社に入ってもやりたくない仕事はきっとあるものだし、欠点だってあるものだ。そういった要素に、僕は目をつぶることができなかったのだ。

f:id:hayner:20161202032940j:plain 一般的に1対1のカードゲームでは相手の手札を見ることはできない。知識の少ない初心者は相手の手札をあまり考慮しないが、中級者くらいになると相手の手札にあれがあるかも知れないこれがあるかも知れない、と無駄に裏を読んでゲームに負ける時がある。確実にそこにあるメリットよりも不確実なデメリットが大きく見えてしまうのだ。潤沢に手札があり、無数に選択肢があったのにも関わらず、相手の手札を恐れてカードを切れず、かくして僕は"ゲーム"に敗北した。妥協ができないと総合的な判断力を失う。部分的な敗北を認めて盤面全体を俯瞰する、そういう視点をこの半年の間完全に失っていた。

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 井伏鱒二の『山椒魚』という短編を読んだことがあるだろうか。頭が大きくなってしまって、棲み家にしていた岩屋で寝ているうちにそこから出られなくなってしまった山椒魚の心情を描いたものだ。岩屋から出られない山椒魚は、岩屋の外を自由に泳ぐ小エビや蛙に2ちゃんねらーよろしく毒を吐いたりする。そんな中、偶然岩屋に飛び込んできた蛙を山椒魚は幽閉して――というお話。

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 とても短い話なので、後半は是非読んでみて欲しいのだが、就活を終えて精神が落ち着いてきた頃、自分はこの山椒魚のようだと感じた。"頭"が大きくなって打つ手が無くなってしまった僕は、この山椒魚と同じように「寒いほど独りぼっち」だった。

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 長々と書いているが、僕の経験から得て欲しい教訓としては、就活に限れば積極的な理由を持って挑んで欲しいということだ。どんなものでもいいので、積極的な理由を1つ、譲れないものを1つだけ決めておくことだ。複数あると最初積極的だったはずが、いつの間にか消極的な就活になってしまう。ゲームには負けてしまうかも知れないが、手札を使わずに負けるよりは遥かにマシだろう。迷った時に切る手札の指針と言ってもいいだろう。

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 僕は岩屋の中で就活を終えてしまったが、今はまだ外に出るのを諦めたわけではない。頭を小さくする方法があるのかも知れないし、実は別の出口があるのかも知れない。諦めなければいつか岩屋から出られる日が来るかも知れない。そう考えられるようになったのがつい最近で、夏の終わりと比べて悲観の度合いは随分小さくなったように思う。

 

 しかし岩屋からの脱出方法を考えている一方で、本心では蛙が岩屋に飛び込んでくるのを待っているのかも知れない。

 

 

 

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■編集後記
夜行バスには気をつけよう!
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