私心の欠落

 「○○な人が××すべきn個の理由」
 こんなタイトルの書籍や記事を、誰しも一度は目にしたことがあると思う。
 僕はこの手の記事が嫌いだ。何故かと言うと、n個といいつつ結局内容が重複していて、一言二言で済むような内容を間延びさせているものがほとんどだからだ。

あなたが出来るだけ若いうちに旅するべきだと思う12の理由 | タビフレ!
http://student.his-j.com/travel/tabippo/2898.html

 例として挙げたこの記事では12と言いつつ、肝心なものは3つで、

  1. 旅が個人の価値観に与える影響
  2. 時間と耐力の制約
  3. そもそもの旅行が楽しさ

 とこんなものだろう。後は一般教養科目のレポートのように、余計な文章を足してページ数を稼げば良い。

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 前置きが長くなってしまったが、僕がn個の理由記事が嫌いだというのは前置きで、今回話したいのは旅行の話だ。というのも僕の研究室の、卒業する学生はひとり残らず海外に行っている。この事実を知った時、僕はテーブルがペトペトしている店でイワシと野菜のカレーを見た時のゴローのような顔をしていたに違いない*1

 「大学生が何かと理由をつけて行く旅行批判」が今回のテーマだ。テーマだ、とは言ったものの別に深い話があるわけではない。前述した「価値観を変える」だの「社会人になったら時間がないから」だの、どこかから取って持ってきたような理由をつける輩が気に入らないという話だ。

 まず「社会人になったら時間がないから」という理由。

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 これは一番使う人が多いし、実際僕も0.1理くらいはあるかなと思う。しかしこれを言うのは社会に一度も出たことがない奴がほとんどだ。社会に出てから大学に戻って、また社会に戻るぞという人が言っているわけではない。恐らくそういう人から直接聞いたわけでもないだろう。なのになぜ統合思念と化したグランマ*2かのように皆同じ理由を口にするのか。結局は何となく知っていて、実際回りもそう言っているからそうだと思っているだけなのではないだろうか。確かに社会人になって仕事が忙しくて旅行どころではない人も多いだろう。しかし社会人になったって時間をつくって海外旅行をしている人だって同じようにいるだろう。自分は時間をつくれないだろうと守りに入った奴が「価値観を変える」だのなんだの言っているんだから滑稽である。

 「価値観を変える」というのもほぼ同じような理由だろう。本当に価値観を変えようとして旅行に行く奴が全体の何%いるのだろうか。ほとんどがもっともらしい理由として述べているに過ぎないのではないか。

 それに旅行に行ってきた奴が「価値観変わるよ!」なんて言うのも甚だお節介である。ガンジス川で沐浴をする前と後で具体的に何が変わった?異文化に触れて人にやさしくできるようになったか?チャレンジ精神が刺激されて起業でもする気が起きたか?
恐らく何も変わってはいないだろう、インドから帰れば今までどおりのそいつが今までどおりの日常を送るだろう。ウユニ塩湖の圧巻の景色を見なくても一本の映画で、一冊の本で、友人の些細な一言で、大きく価値観が変わることだってあるだろう。海外旅行をしなければ価値観を変えられない人間が海外旅行をして変える価値観など、たかが知れているのではないだろうか。

 こんなことを書いているとメタルギアソリッド2の終盤、大佐の説教*3を思い出した*4

雷電「次の世代に伝えるものは自f:id:hayner:20160320213137p:plain分で決める!」
大佐「それは君自身の言葉か?」
ローズ「スネークさんが言ったことじゃないの?」
雷電「……。」

 アイデンティティを確立できていない雷電がスネークの言葉を自分の意見かのように使い、それを大佐とローズマリーに咎められるシーンだ。何となーく卒業旅行で海外に行ってるやつはこの雷電と全く同じだ。「ぬるま湯の中で適当に甘やかしあいながら、好みの「真実」を垂れ流」*5しているのだ。

 散々言ったが、卒業旅行や海外旅行を否定しているわけではない。みんなが行くから、みんなと同じ理由で何となく行くというのが気に入らないのだ。趣味とまで行かなくてもいい、旅行が好きだから、○○が見たいから、それだけでいい。そこに「社会人になったら時間がない」とか「価値観が変わる」とかいうことは関係ないはずである。欲を言えば、僕の友人・知人なら何かウィットに富んだ理由をつけて欲しいものだ。

 こんな文章を書いておいて何だが、僕だって来年になったら卒業旅行に行くかも知れない。しかし海外には行かないんじゃないかなぁと思う。その理由は

 まず、旅行で得る感動より大きい感動を得る方法を僕は知っているということ。
 次に、一年後もきっと、今と同様にお金が無いだろうということ。
 最後に、そもそも僕は旅行があまり好きではないということ。

 これが「僕が卒業旅行で海外に行かないであろう3つの理由」だ。

 

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■編集後記

これから何度孤独のグルメを引用するかな

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*1:毎度おなじみ孤独のグルメ。苦手意識を感じつつも入ったヒッピーがやっているような自然食レストラン。隣の客が頼んだイワシと野菜のカレーや、注文したおまかせ定食にも初見では抵抗を示すが、味噌汁やほうれん草の素朴な美味しさに感動するゴロー。しかし量が少なかったため、追加でイワシと野菜のカレーを大盛りでオーダーする。

*2:ひたすらマウスをクリックすることでクッキーを焼き続けるクッキークリッカーというゲームに登場するおばあさん。クリックせずとも毎秒1枚のペースでクッキーを増やしてくれる。ゲームを進めるうちにたくさんグランマを雇うことになり、果ては全てのグランマが統合思念と化して尋常ではない速度でクッキーを焼き続ける

*3:MGS2コナミから発売されているステルスゲームメタルギアソリッド」シリーズの2作目。MGSシリーズは遺伝子操作や反戦反核などの社会性の高いテーマを取り入れているのが特徴的で、それらに翻弄される主人公を操作する形でゲームが進行する。MGS2では雷電という特殊部隊の兵士が主人公で、上司である大佐や恋人のローズなどとの無線を通じてストーリーが進むシーンがいくつかあるのだが…

*4:というか途中意識して書いた

*5:大佐の説教めちゃ好き

MGS2 大佐の説教 - YouTube